赤外線外壁調査の精度はどれくらい?|打診調査との違いと特徴を解説

赤外線外壁調査について調べると、「打診と同等以上の精度」という説明をよく見かけます。実際に国土交通省も、一定条件下において「打診と同等以上の精度を有するもの」と位置付けています。
しかし、実際に赤外線調査と打診調査の両方を行っている立場から言うと、赤外線調査はそこまで単純な調査ではありません。
赤外線調査は、
- 日射条件
- 仕上げ材
- 浮き厚
- 建物形状
- 調査員の解析技術
などによって検知精度が大きく変わります。
そのため、改修工事前の数量算出で赤外線調査結果をそのまま数量として扱うと、実際の打診数量と差が出るケースがあります。
この記事では、実際の打診照合結果や論文をもとに、赤外線調査の精度について実務ベースで解説します。
赤外線調査は「打診と同等以上の精度」は本当?
結論から言うと、条件が揃えば高い一致率を出せるケースはありますが、打診と同等以上とは言えません。赤外線調査は、仕上げ材の相性・建物条件・日射条件・撮影距離・解析技術によって精度が大きく変わります。
そのため、「赤外線は打診の同等以上の精度」と考えるとミスマッチが起こる可能性が高いです。
国交省は一級建築士の打診と同等以上の精度と位置付け

令和4年4月1日に、ドローンによる赤外線外壁調査が打診と同等以上の精度を有する調査方法として国交省から発表されました。
以下は、その官報の一文の引用です。
開口遇部、水平打継部、斜壁部などのうち手の届く範囲をテストハンマーによる打診等(無人航空機による赤外線調査であって、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有ずるものを含む。以下この項において同じ。)により確認し、その他の部分は必要に応じて双眼鏡などを使用し目視により確認し、異常が認められた場合にあっては全面打診等(落下により歩行者などに危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等をいう。以下この項において同じ。)により確認する
国土交通省告示第百十号
この情報だけを見ると、
「赤外線調査=打診と同等以上の精度」と受け取ってしまいがちです。
しかし実際には、赤外線で検出できる浮きと、検出できない浮きがあります。これはガイドラインに従って調査した場合でも同様です。
赤外線調査は、外壁表面の温度差から浮きを推定する調査方法であり、打診調査のように直接打撃音で浮きを確認しているわけではありません。
そのため、温度差として現れないケースがあります。
つまり、赤外線調査は「すべての浮きを検出できる調査」ではありません。(打診も100%浮きを検知できる手法ではない)
実際の現場でも、
- 打診では確認できるが赤外線では出ない浮き
- 赤外線では容易に検知できるが打診では見逃す可能性があるほど微細な音の違い
の両方が存在します。
そのため、国交省告示の「打診と同等以上の精度を有するもの」という表現だけを切り取って、“赤外線=打診と同じ精度”と理解してしまい、改修工事の予算取りに直結させるとミスマッチが起こりますので、注意が必要です。
赤外線調査で検出しやすい浮き・しにくい浮き
弊社の実務による経験則となりますが、以下は赤外線調査と打診調査の浮きの検知しやすさの特徴をまとめたものです。
| 劣化の種類 | 赤外線調査 | 打診調査 |
| モルタルの塗膜浮き | 検知しやすい | 目視で分かる |
| モルタルの鉄筋爆裂 | 検知しやすい | 軽い、長尺打診棒だと検知しにくい |
| 剥落リスクのある1㎡以上の面積の広い浮き | 検知しやすい | 検知しやすい |
| 温度上昇しない浮き厚の小さい浮き | 検知しにくい | 検知しやすい |
| RC造の塗装仕上げの上裏の爆裂 | 検知しやすい | 打診がしにくい |
| 日の当たらない北面・陰面 | 検知しにくい | 変わらない |
| 柱や開口部周辺など熱伝導に影響がある場所 | 検知しにくい | 変わらない |
これらは単体の要因だけでなく、仕上げ材の色、浮き厚等、気象条件等、複合的な要素が影響するため、良くも悪くも例外はあります。
例えば、以下は北面の浮きですが問題なく赤外線で検知しているケースです。

また、上裏に関してはガイドラインでは赤外線調査で検知できないと記載がありますが、弊社独自の赤外線調査法で実証実験を行い、設計事務所の打診調査の結果と照合した結果、赤外線調査のほうが検知率が優れていた結果もあります。
赤外線調査と打診調査の用途の違い
そのため、低コストかつ広範囲を短時間で確認できる一次調査としては、赤外線調査は外壁調査と非常に相性が良い手法です。
- 剥落リスクの高い危険箇所の抽出
- 優先補修箇所の把握
- 改修計画前のスクリーニング
- 足場設置前の事前調査
などでは、大きな効果を発揮します。
一方で、浮き厚が小さい(空隙がほぼない)浮きについては、検知率が下がる傾向があります。
つまり、“温度上昇しない浮き”は、赤外線では見えにくいということです。
そのため、改修工事前の正確な数量算出や、細かな浮きまで把握したいケースでは、赤外線調査単体とは相性が良いとは言えません。
また、赤外線調査は「温度が高い箇所」を浮きとして判定する調査手法です。そのため、実際に打診確認を行うと、赤外線で温度異常が出ている範囲の周囲も浮いているケースが多くあります。
つまり、赤外線画像に写っている異常範囲が、そのまま実際の浮き範囲と完全一致するわけではありません。
そのため実務では、予算や調査目的や必要精度に応じて、赤外線調査でやるか打診調査でやるか、両手法を組み合わせてやるかの判断が重要になります。詳しくは外壁調査の方法と選び方の記事で解説しています。
赤外線調査の精度に影響する3つの要因
日射・気象条件

赤外線調査は、冷えた外壁に日射が当たり、外壁表面が加熱された際に、浮き部と健全部の温度差が発生する現象を利用した調査方法です。特に、
- 朝方の冷え込みで外壁が十分に冷えている
- 空気が澄んでいる
- 適切な太陽方位
- 適切な太陽高度
- 安定した日射
といった条件が揃うと、浮きと健全部の温度差が明瞭に現れやすくなります。
このとき重要になるのが、「日較差」です。日較差とは、朝方の最低気温と日中の最高気温の差を指します。
一般的に、日較差が大きいほど外壁表面の温度変化が大きくなり、赤外線調査では浮きを検知しやすくなる傾向があります。
一方で、曇天や湿度が高い日などで日較差が小さい場合は、外壁表面の温度差が発生しにくくなり、検知率は低下します。
弊社の実務経験上でも、以下のような日は非常に解析しやすい傾向があります。
- 日較差が10℃以上ある日
- 冬季の乾燥した晴天
- 朝方に十分冷え込んだ日
赤外線調査では、建物の向きや季節によって、最適な撮影時間帯や検知精度が変わります。建物の向きごとの調査時期や日射条件については、「赤外線外壁調査は何月からできる?」の記事で詳しく解説しています。
外壁の仕上げ材
検知率は、外壁の仕上げ材によっても大きく異なります。
以下は、どちらも打診で浮きを確認した同規模程度の浮きですが、右側の方が明瞭に温度差が現れている事例です。


画像①は、
- 光沢が強い
- 白系タイル
- 深め目地
- 厚みのある二丁掛タイル
という条件が重なっており、温度差が視認しにくい仕上げ材です。光沢の強いタイルは、太陽光や周辺環境を反射しやすいだけでなく、放射率も低いため浮きが検知しにくい特徴があります。
また、白系タイルは表面温度が上がりにくいため、浮きとの温度差が小さくなりやすい傾向があります。
さらに、深い目地や凹凸形状は、熱伝導に時間がかかり、解析難易度が上がります。
一方、画像②は、
- ベージュ系タイル
- 光沢が少ない
- 日較差が大きい条件での撮影
という条件が揃っていたため、浮き部分の温度差が鮮明に現れています。
このように、赤外線調査は単純に仕上げ材の、色・光沢・形状など、多くの要素が複合的に影響します。
調査員の検証性
赤外線調査で最も重要と言えるのが、調査員の技術力です。赤外線調査は、単純にガイドラインに従えば精度が出る調査ではありません。
実際には案件ごとに仕上げ材や形状が違う建物を仮説を立てて、検証を行っていくうちに赤外線の技術をつけていく調査手法です。そのため、弊社では
- 朝8時~夜20時まで30分刻みで各壁面を撮影し、最も温度差が出やすい時間帯を検証する
- 同一箇所を早朝・昼間・夕方・夜間で比較する
- 打診結果と赤外線結果を照合する
- 判別が難しい場合は、車で2時間かけて現地へ行き打診確認を行う
といった検証を継続して行ってきました。

こうした検証を繰り返すことで、
- どの条件で温度差が出やすいか
- どのような浮きが検知しにくいか
- どのような誤判定が発生するか
など、赤外線調査への理解が深まっていきます。しかし、それでも赤外線調査ですべての浮きを検知できるわけではありません。
これは調査員の能力だけで解決できる問題ではなく、赤外線調査そのものの原理的な限界でもあります。
実際に弊社では、3日間に分けて撮影を行った現場がありました。その建物は手の届く範囲の打診の結果、全体的に浮きが極端に少ない物件でしたが、4階部分だけにまとまった温度異常が確認されました。
さらに夜間撮影を行い、昼間とは逆転する温度変化も確認しました。しかし、それでも「本当に浮きなのか」という確信を持つことができませんでした。
そこで、バルコニーから打診確認をさせてほしいとお願いしましたが、居住者様の了承を得られず、最終的に検証することができませんでした。
この経験から、「温度差は確認できても、直接叩いて確認できない限界」を実感し、弊社ではロープアクセス事業を開始しました。

ドローン赤外線調査のみに頼るのではなく、
- 実際に近接して確認する
- 必要箇所を直接打診する
- 赤外線結果を現地で検証する
ことで、より精度の高い外壁調査を行える体制を構築しています。
ドローンメイトの検知率比較事例
打診との一致率:81.8%
設計事務所から調査後に依頼があり赤外線画像の解析後に手の届く範囲の打診調査を実施し、検知精度の確認するよう依頼がありました。
検証対象はモルタル仕上げまた、RCの7棟を対象とし22箇所を窓もしくは二連梯子から打診を行い、打診棒による打音と赤外線判定との照合を実施しました。
| 判定内容 | 結果 | 割合 |
|---|---|---|
| 浮きと判定し、実際に浮きだった | 15箇所 | 68.1% |
| 浮きと判定したが補修跡だった | 2箇所 | 9.01% |
| 浮きと判定したが浮き音未確認 (同箇所にひび割れ有り) | 2箇所 | 9.01% |
| ノイズと判定し、実際にノイズだった | 3箇所 | 13.6% |
| ノイズと判定したが実際は浮きだった | 0箇所 | 0% |
なお、「浮きと判定したが浮き音未確認」の箇所については、いずれもひび割れを伴う部位でした。
窓からの2m打診棒による確認では明確な浮き音は確認できませんでしたが、類似条件の錆汁を伴うひび割れ箇所では、実際に打診で浮き音を確認できています。
そのため、今回の未確認箇所についても、
- 浮き界面が深い位置に存在している
- 窓から手を伸ばし2m打診棒では打撃力が下がる
などの理由により、打診で検知できなかった可能性があると考えています。
上裏の爆裂を赤外線調査と打診調査で
上裏は第三者への落下リスクが高いため、当社では赤外線調査結果について重点的な確認を行っています。
「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」では、軒天・上裏は日陰となりやすく、浮きの検出が困難とされています。

による外壁調査 ガイドライン
一方で、上裏の爆裂については、コンクリート片が重力方向へ剥離しようとする力が働くため、鉄筋周囲に空隙が生じやすく、温度差が発生するケースがあります。そのため、上裏の爆裂は赤外線調査と相性が良いと考えています。
実際に、実証実験で設計事務所(他社)による足場無しの打診調査結果との照合も実施したところ以下の結果となりました。
- 赤外線調査で検知した露筋・爆裂・塗膜浮き:137箇所
- 打診調査で検知された露筋・爆裂・塗膜浮き:110箇所

調査条件や判定基準の違いにより単純比較はできませんが、上裏においても赤外線調査が有効に機能するケースがあることを確認しています。
上裏はコンクリートのかぶり厚が薄いため、非常に剥落が発生しやすい部位です。
特に学校施設などでは、限られた予算の中で維持管理を行う必要があり、施設管理担当者からも上裏の劣化について相談を受けるケースがあります。
実際に自治体の施設課担当者から、「上裏しか落ちないと言われるほど、上裏は剥落しやすい」「大きな問題として報道されないだけで、部分的な剥落は珍しくない」という声もありました。
実際に、上裏のコンクリート片落下事故が報道されるケースもあります。
論文・研究ではどのような結果がでているか
赤外線調査の精度に関する論文
日本建築学会技術報告集「各種測定法によるタイル仕上げ外壁の診断精度に関する研究」では、打診法と赤外線法の外壁劣化箇所の検出率を比較したデータを見ることができます。
この実験では、厚さ0.1mm・1mm、30mm×大きさ5cm角・10cm角・30㎝角の外壁の浮きを人工的につくり、打診調査・赤外線調査・電磁波レーダーによる検出率の違いを測定しています。

打診調査は、外壁診断業務10年以上の経験者3名が行い、赤外線装置法はFLIR社の2機種で行いました。それぞれの調査結果をまとめてみました。
| 浮きの大きさ | 浮きの厚さ | 浮きの深さ | 打診 | 赤外線 |
| 5㎝角 | 0% | 30% | ||
| 20㎝角 | 60~90% | 70% | ||
| 10cm角 | 0.1mm | 0~5% | 0% | |
| 20㎝角 | 0.1mm | 50~80% | 0~5% | |
| 20㎝角 | 1mm | 60~100% | 100% | |
| 20㎝角 | 3㎜ | 85~100% | 100% | |
| 5㎝角 | 30mm以上 | 0% | 0% | |
| 10cm角 | 30mm以上 | 0~10% | 40~50% | |
| 20㎝角 | 30mm以上 | 40~100% | 65% | |
| 30㎝角 | 30mm以上 | 80~100% | 70% |
以下は論文の要約です。
【打診調査】
打診調査では、5cm角程度の小さな浮きは、ほぼ検出できない結果となりました。
10cm角では検出率10〜40%程度、20cm角以上で検出率60%以上となっており、論文では「20cm角程度が実用上の適用目安」と考察されています。
また、浮き厚さ0.1mmの非常に薄い浮きについては、
- 10cm角:検出率10%以下
- 20cm角以上:検出率50〜80%
という結果となっており、薄い浮きでも面積が大きい場合は検出可能であることが確認されています。一方で、浮き深さが20mmを超えると、小さい浮きは検出が困難となる傾向が確認されています。
【赤外線法】
赤外線調査では、浮き厚さ0.1mm程度の極めて薄い浮きは、ほとんど検出できませんでした。
論文では、
- 厚さ1mm:検出率40〜80%
- 厚さ3mm:検出率60〜90%
となっており、浮き厚さが大きいほど検出性能が向上する結果となっています。
これは、浮き厚さが極めて小さい場合、断熱効果が十分に発生せず、健全部との温度差が生じにくいためと考察されています。
また、浮きサイズについては、
- 5cm角:0〜30%
- 10cm角:50%以上
- 20cm角以上:概ね70%以上
という結果となっており、論文では「温度条件が良い場合は10cm角程度が実用上の適用目安」とされています。
赤外線調査の精度に関する論文
打診調査の精度に関する論文
日本建築学会技術報告集「RC造外壁タイルの打診調査の診断手法に関する考察」では、打診調査の診断結果には調査員によるばらつきが存在することが報告されています
論文では、非破壊検査を専門とする業者及び大学関係者(教員・学生)の 18 名が同一の外壁を打診調査したところ、同じ外壁・同じ調査条件であっても判定結果に大きな差が発生しました。

論文では、打診調査は「調査員の感覚」に依存する調査手法であり、同じ外壁を調査しても、調査員によって判定結果にばらつきが発生することが報告されています。特に、
- 経験年数
- 診断基準
- 作業方法
- 作業時間
などによって診断結果が変化する傾向が確認されました。
一方で、事前に診断基準の共有や現場での打合せを行い、調査手法を標準化することで、調査精度の向上が期待できるとも結論づけられています。
また、熟練者ほど「怪しい箇所を広めに拾う(過大検出)」傾向があり、初級者ほど「見逃し(過少検出)」が多い傾向も確認されています。
そのため論文では、
- 調査結果にはばらつきが存在することを前提に診断を行うこと
- 調査者間で診断基準を共有すること
- 調査手法を標準化すること
が重要であるとしています。
さらに、打診調査の結果は改修数量や工事費にも影響するため、調査員の経験や診断傾向を考慮して判断する必要があると考察されています。
まとめ|赤外線調査は「万能ではないが有効」
赤外線調査は、日射条件・仕上げ材・浮き厚・調査員の解析技術によって精度が大きく変わる調査方法です。そのため、「赤外線=打診と同等以上の精度」と単純に考えるとミスマッチが起こる可能性があります。
一方で、
- 広範囲を短時間で確認できる
- 剥落リスクの高い浮きを検知しやすい
- 足場不要で調査できるケースがある
など、赤外線調査ならではの強みもあります。
また、論文でも、
- 赤外線は薄い浮きが苦手
- 打診も調査員によって結果が変わる
ことが報告されており、どちらかが完全に優れているわけではありません。重要なのは、「どの建物に、どの調査方法が合うか」です。弊社では、
- 赤外線のみで十分な建物
- 打診を併用した方がよい建物
- 上裏や爆裂を重点確認すべき建物
など、建物条件やご予算に応じて調査方法をご提案しています。図面や建物写真があれば、調査方法や概算費用のご相談も可能です。
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