近年、定期報告の12条点検や大規模修繕の事前調査に、ドローンによる赤外線外壁調査を選ぶマンションオーナーや管理組合が増えています。
調査コスト削減や短期間で調査を終えるため積極的に取り入れたいと思う方がいる一方で、「劣化部分の検出率はどのくらい?」「打診と比べて精度はどうなの?」と疑問を抱く方もいらっしゃるでしょう。
ドローン赤外線調査は研究により打診調査と同等もしくはそれ以上の精度を出せると分かっていますが、実際の現場で劣化箇所の検出をするには、赤外線撮影の知識や検証の積み重ねが必要です。
この記事では、外壁調査事業を展開している『ドローンメイト』が、打診調査と赤外線調査の劣化部の検出率の違いや、ドローン外壁調査を行う上で検出精度を上げるための基礎的な撮影方法をご紹介いたします。
ドローン外壁調査の精度は国が認める調査方法
令和4年4月1日から、ドローンによる赤外線外壁調査が打診と同等以上の精度を有する調査方法として国交省から認められました。
以下は、その官報の一文の引用です。
開口遇部、水平打継部、斜壁部などのうち手の届く範囲をテストハンマーによる打診等(無人航空機による赤外線調査であって、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有ずるものを含む。以下この項において同じ。)により確認し、その他の部分は必要に応じて双眼鏡などを使用し目視により確認し、異常が認められた場合にあっては全面打診等(落下により歩行者などに危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等をいう。以下この項において同じ。)により確認する
国土交通省告示第百十号
無人航空機(ドローン)による赤外線調査は、打診調査と同等以上の精度になり得ると受け取って問題ないでしょう。
ただし、ドローン外壁調査で精度が出るのは「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査 ガイドライン」のように適切な調査方法を行った場合に限ります。
ガイドラインから外れた方法だと劣化部分の検出率が低いどころか、そもそも検出できない可能性もあるので注意が必要です。
赤外線vs打診調査!浮き検出の比較実験の検証結果
ドローン外壁調査は公式に認められる調査方法というのは分ったけれど、打診と比べてどの程度の精度が出るのか気になるところです。
「各種測定法によるタイル仕上げ外壁の診断精度に関する研究」では、打診法と赤外線法の外壁劣化箇所の検出率を比較したデータを見ることができます。
この実験では、厚さ0.1mm・1mm、30mm×大きさ5cm角・10cm角・30㎝角の外壁の浮きを人工的につくり、打診調査・赤外線調査・電磁波レーダーによる検出率の違いを測定しています。
打診調査は、外壁診断業務10年以上の経験者3名が行い、赤外線装置法はFLIR社の2機種で行いました。それぞれの調査結果をまとめてみました。
浮きの大きさ | 浮きの厚さ | 浮きの深さ | 打診 | 赤外線 |
5㎝角 | 0% | 30% | ||
20㎝角 | 60~90% | 70% | ||
10cm角 | 0.1mm | 0~5% | 0% | |
20㎝角 | 0.1mm | 50~80% | 0~5% | |
20㎝角 | 1mm | 60~100% | 100% | |
20㎝角 | 3㎜ | 85~100% | 100% | |
5㎝角 | 30mm以上 | 0% | 0% | |
10cm角 | 30mm以上 | 0~10% | 40~50% | |
20㎝角 | 30mm以上 | 40~100% | 65% | |
30㎝角 | 30mm以上 | 80~100% | 70% |
実験結果をざっくりと説明しますと、打診と赤外線調査には以下のような傾向がありました。
【打診調査】
- 調査員人に検出精度が異なり、10%~60%の検出率の違いがある
- 5㎝角の浮きはほぼ検出できない
【赤外線法】
- 厚さ0.1mmの浮きをほぼ検知できない
- 浮きの厚さ10㎝、位置が30mm以上のばあい打診より検出率が高い
赤外線は全体的に検出率が低いように見えますが、これは厚さ0.1mmの浮きを検出できないからだと思われます。厚さ0.1mmの劣化を除いた場合の検出率はかなり高いようです。
また、日本建築防災協会の「T3:非接触方式による外壁調査の診断手法及び調査基準に関する検討」によると、厚さ0.1mmの浮きも輪郭は不鮮明ではあるが検出できたようです。
劣化部分を検出するには赤外線の専門的な知識が必須
先の実験のとおり赤外線の劣化部の検出精度は高く、タイル剥離が起こるような20㎝以上の浮き等は問題なく検出できますが、それには赤外線法の知識や経験が必要です。
ドローン外壁調査は日射による外壁の温度上昇を利用して浮きや水分滞留を検出するため、実際の現場の撮影となると適切な条件で撮影しなければ劣化部分を検出できません。
太陽高度や方位、撮影日の最高気温と最低気温、壁面温度が温まるタイミング、風速など条件がそろった状態で解析しやすい画像を撮影する必要があります。
ドローン赤外線外壁調査や赤外線法は適切な方法で撮影を行い、さらに知識を持つ人が解析してはじめて、全面打診と同程度の精度で診断できるのです。
ドローン外壁調査で検出精度を出すための3つの方法
ドローン外壁調査を業者に依頼される予定の方も赤外線撮影について少しでも知っておいた方が、業者選びの際に役立ちます。
この項目では赤外線調査の基本である、精度を高める方法の一部を紹介いたします。
赤外線計画を立て好条件で撮影する
外壁調査は日光を利用して劣化部分を検出するため、綿密な事前調査や赤外線計画が必要です。
太陽は季節により高度や方位が異なりますので、あらかじめ複数のツールを利用して赤外線撮影スケジュールを立てます。
例えば、夏は北面に日射が当たる物件でも、冬場には日射が当たらない場合が多くあります。このような物件の冬場の撮影は、正午あたりの気温上昇をみて壁面温度が高くなるタイミングを見計らって撮影を行います。
赤外線計画では、建物の向き、タイルの仕上げ材、周辺の環境、建物の汚れの有無、入隅出隅などを事前に調査し、その建物に適した赤外線撮影スケジュールを立てます。
事前の打ち合わせの段階で当日の撮影計画を詳しく解説してもらえば、調査を依頼する側も安心ですね。
打診調査と赤外線の整合性を確認してから調査をスタートする
前項で紹介しました「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」には、ドローン外壁調査を行う際に検出精度を高めるために、打診法と赤外線の整合性をチェックしてから撮影を開始するように示されています。
以下はガイドラインからの引用です。
定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン
- 赤外線調査により健全と判断された部分について、各壁面1箇所約1m2 程度を打診により確認する。
- 赤外線調査により浮きと判断された部分について、各壁面1箇所約1m2 程度を打診により確認する。
- 打診により確認された健全部と浮き部の表面温度を赤外線装置で確認し、表面温度に差があること、また判断された健全部と浮き部の範囲が概ね同程度であることを確認する。
手の届く範囲を打診と赤外線と両方で調査してみて結果がそろってから、外壁全体の調査をスタートしましょうということです。
弊社では6~9mの地上から手の届く範囲を出来るかぎり打診します。打診と赤外線を照合させることで建物全体の劣化部の検出率を上げるだけでなく、経験値として蓄積され今後の調査に活きるからです。
適切な距離と角度から撮影
建物を撮影するとき、赤外線カメラは仰角が45度以内、水平角は30度程度まで許容できます。この角度を超えるばあい、浮きの検出性能が著しく下がる可能性があります。
また、赤外線カメラは一定レベル以上の精度を保つために撮影距離に気を付けなければなりません。適切な撮影距離は赤外線カメラの性能により変わりますが、性能が高いサーマルカメラほど遠距離から撮影が可能です。
ドローン外壁調査は適切な方法で行えば劣化を検知できる診断方法
赤外線カメラは研究により打診と同等程度の検出精度があると分かっており、ドローン外壁調査を取り入れる自治体も出てきています。
ただし、赤外線カメラで撮影と解析を行って劣化箇所を発見するには知識や経験が必要です。
ドローンメイトでは、赤外線の公的資格をもつ担当者、ドローンの国家ライセンスをもつオペレーターが綿密な赤外線計画を立てて調査を行います。
調査した画像は解析後、第三者がみても分かりやすいように報告書としてまとめて提出いたします。
ドローン赤外線調査外壁調査の活用をご検討の方は、ドローンメイトにご相談ください。