10年に1度の外壁の全面打診調査は義務?12条点検を怠った場合の罰則について

外壁の”浮き”とよばれる劣化現象は、はじめはコンクリート躯体とモルタルの間に空隙ができ、さらに進行がすすむと外壁の一部が剥がれ落ちて大きな事故へとつながります。

外壁の浮き部の劣化進行の図

剥落事故を防ぐために、特定建築物は10年に一度の外壁全面調査が義務付けられており、近年では、無人航空機(ドローン)を使用した赤外線調査も注目されています。

目次

10年に1度の外壁調査とは

ドローン外壁調査で打診を併用する調査員

マンションやビルなどの特定建築物に該当する建物は、竣工もしくは外壁の改修工事から10年経過した最初の定期報告で外壁の全面調査の結果を報告する義務があります。

調査手法は打診調査か赤外線外壁調査(ドローンを含む)のいずれかの手法で実施するように定められています。

1989年11月21日、北九州の10階建ての屋上広告塔のタイル貼りの外壁が剥がれ、約31m下に落下、下を通りかかった通行に当たり3人のうち2人が死亡、1名が重傷となりました。

これを機に「剥落による災害防止のためのタイル外壁、モルタル塗り外壁診断指針」が策定され、平成20年4月1日以降に10年に1度の外壁の全面打診調査を行うことが義務付けられました。

この外壁の全面打診は建築基準法第12条に定められた調査・報告に該当します。

第十二条
第六条第一項第一号に掲げる建築物で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして政令で定めるもの(国、都道府県及び建築主事を置く市町村が所有し、又は管理する建築物(以下この項及び第三項において「国等の建築物」という。)を除く。)及び当該政令で定めるもの以外の特定建築物(同号に掲げる建築物その他政令で定める建築物をいう。以下この条において同じ。)で特定行政庁が指定するもの(国等の建築物を除く。)の所有者(所有者と管理者が異なる場合においては、管理者。第三項において同じ。)は、これらの建築物の敷地、構造及び建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築物調査員資格者証の交付を受けている者(次項及び次条第三項において「建築物調査員」という。)にその状況の調査(これらの建築物の敷地及び構造についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含み、これらの建築物の建築設備及び防火戸その他の政令で定める防火設備(以下「建築設備等」という。)についての第三項の検査を除く。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。

建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)

12条点検で全面打診を実施するタイミング

特定建築物の定期報告(12条点検)では、3年毎に手の届く範囲で打診、10年に1度全面的な打診等(ドローンによる赤外線調査も含む)が必要です。

調査の周期調査範囲調査内容
3年に1度手の届く範囲・手の届く範囲の打診
・双眼鏡などで目視
10年に1度外壁全面・赤外線調査で外壁の全面
・足場やゴンドラで全面打診

赤外線で調査する例

ドローンが外壁調査をしている画像

以下は竣工もしくは改修工事から10年後に、赤外線調査を行った場合の例です。

横にスクロールできます

竣工1年2年3年4年5年6年7年8年9年10年11年12年
〇3年に1度の手の届く範囲の調査   ★赤外線で全面調査を実施  ●3年以内の★の結果を報告

10年目にサーモグラフィ―やドローンで赤外線調査を行い、12年目の定期報告の際に結果を行政へ報告します。

赤外線調査のデメリットなどについてはこちらで解説しています。

全面打診+外壁改修をする例

足場を設置して打診

以下は、足場を組んでの全面打診+外壁改修を行った場合の例です。

竣工1年2年3年10年11年12年13年14年15年
〇3年に1度の手の届く範囲の調査   ★全面打診+改修工事  ●3年以内の★の結果を報告

10年を越えた最初の定期報告は、全面打診等の報告義務がありますが、3年以内に外壁の改修工事が確定している場合は、免除されます。

上の例では、13年目に大規模修繕を行い、15年目にその結果を行政へ報告する例です。

外壁調査が不要な箇所

10年に1度の外壁調査は、「落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」が対象です。

10年1度の全面打診の実施箇所
出典:保全ニュースとうほく 建築物点検シリーズ 13 外壁点検編

「剥落による災害防止のためのタイル外壁、モルタル塗り外壁診断指針」によると、壁面の高さ2分の1の水平面内に、私道、行内通路、広場を有する箇所が調査対象として定められています。

調査が不要となる箇所は以下の通りです。

  • 壁面直下にコンクリート・鉄骨造の屋根や庇がある箇所
  • 植え込みにより通行がない箇所

外壁調査の主な手法は「赤外線法」「打診法」の2種類

国土交通省が認める、10年に1度の外壁の全面打診で調査法は「赤外線法」と「打診法」の2種類です。

赤外線法打診法
調査コスト低額高額
仮設の必要なしあり
工期短い長い
補修別途必要同時に可能

打診調査は仮設工事が必要なため、補修を前提としているのに対して、赤外線は劣化の状況によって補修を行うか判断する点が大きな違いです。

調査コストが抑えられる「ドローンによる赤外線法」

外壁調査を行っているドローン

赤外線法には、”地上赤外線法”と”ドローンによる赤外線外壁調査法“があり、どちらも足場やゴンドラを必要としないため、低コストで外壁の全面調査ができます。

手の届く範囲の打診調査と併用することで、広範囲を低コストで調査できるため、10年に1度の全面調査に適した手法です。

国土交通省も推進している手法であり、令和4年1月には特定建築物の全面調査に正式に認められました。

10 年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等を求めている。これらの調査方法として、打診と同等以上の精度を有する無人航空機による赤外線調査を明確化したものである。
打診と同等以上の精度の判定にあたっては、一般財団法人日本建築防災協会が設置した学識経験者等による委員会「赤外線装置を搭載したドローン等による外壁調査手法に係る体制整備検討委員会」)において取りまとめられた「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)(別添)を参考とされたい。

建築基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(技術的助言)

赤外線調査は現地撮影が1日で終わるため、短期間で調査が可能であり、1㎡あたり100~300円程度と打診に比べて低コストで調査できるため10年に1度の外壁点検に適した調査法です。

ドローンによる12条点検についてのメリットはこちらで解説しています。

補修もセットに行える「打診法」

足場を設置して打診

打診法は、打診棒とよばれる道具でモルタルやタイルを転がしながら調査する手法です。転がすときに発生する音で内部の空隙を特定し、剥落リスクのある浮きを発見します。

打診棒は短く、耳が近い位置で叩く必要があるため、外壁の全面調査を行う際には、足場やゴンドラや高所作業車等の仮設費が追加で必要です。

そのため赤外線に比べて調査費用が高くなりますが、改修を同時に行えるメリットがあります。

打診法と赤外線法のコストの違いについてはこちらで解説しています。

10年に1度の全面的な打診を怠った場合の罰則

罰金

建築基準法第101条により、特定建築物の調査・報告を怠った場合や虚偽の報告をした者は「100万円以下の罰金に処する」が定められています。

第百一条 次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。

 第五条の六第一項から第三項まで又は第五項の規定に違反した場合における当該建築物の工事施工者

 第十二条第一項若しくは第三項(これらの規定を第八十八条第一項又は第三項において準用する場合を含む。)又は第五項(第二号に係る部分に限り、第八十八条第一項から第三項までにおいて準用する場合を含む。)の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者

建築基準法

剥落事故による賠償責任

また、外壁の劣化や剥落による事故が発生した場合、民法第717条に基づき占有者、所有者等が損害賠償責任を負う可能性があります。

第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。

 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

民法(明治二十九年法律第八十九号)

例えば、外壁が剥がれて歩行者や隣接する建物に被害を与えた場合、損害賠償責任を負うことになります。これにより、経済的な損失や法的なトラブルが発生する可能性が高まります。

日本各地で外壁の剥落はいまだ起きており、事故に発展しているケースもあるようです。以下は、特定行政庁より報告を受けた建築物事故の概要(補足資料)からの抜粋です。

H31/4/17熊本県内共同住宅軽傷2名マンション11階の外壁タイル(約40cm×40cm)が走行中の乗用車の窓ガラスに落下し、運転者及び同乗者が負傷した。
R01/07/31東京都内共同住宅軽傷1名外壁タイルの一部が高さ約4mから長さ約20mに渡り道路へ崩落し、歩行者1名が負傷した。
H30/04/10大阪府内事務所なし事務所4階の外壁タイル(高さ約2m、幅約5m)が剥落し、歩道に落下した。
H30/04/24長崎県内店舗なし4階の外壁タイル(高さ約6m、幅約6m)が剥落し、前面道路に落下した。
H30/06/23北海道内店舗及び事務所なし5階バルコニー上部の外壁(タイル及びモルタル片 約2m×約0.1m×約0.1m)が前面の道路に落下した。
H30/09/26北海道内雑居ビルなし4階の窓上部の外壁のモルタル片(約1.4m×約0.1m×約0.05m)が前面の道路に落下した。
H30/10/29長崎県内 店店舗なし建築物の外壁の一部(タイル、大きさ)が落下し、建築物とアーケードをつなぐトタン屋根を突き破った。
H30/12/24東京都内飲食店なし建物5階部分の外壁タイルの一部(約2m×2m)が敷地西側の道路に落下した。
R01/06/16北海道内共同住宅2階の窓横部の外壁のモルタル片(約40cm×20cm×3cm)が1階のひさしに落下し、破片の一部が道路に飛散した。
R01/07/20北海道内飲食店なし1階と2階の間の外壁のモルタル(縦0.9m×横14.5m)が剥離し、モルタル片が前面の歩道に落下した。
R01/07/27愛知県内店舗なし1階及び2階外壁の仕上げモルタル及びタイルが落下した。
R01/08/27愛知県内店舗なしビルの5、6階から外壁タイルの一部が剥離し、前面の歩道に落下した。また、タイルが落下した際、袖看板(高さ約1m)1基が落下し、2基は損傷が大きいが外壁に残っていた。
R01/09/09東京都内店舗なし3階建て店舗の外壁1面分のモルタルのほとんどが崩落し、隣接住宅の窓が破損した。
R01/09/30新潟県内店舗併用住宅なし商店街沿いの外壁(1.5m×幅約30m)が前面道路へ落下した。
特定行政庁より報告を受けた建築物事故の概要(補足資料)より抜粋

10年に1度の外壁打診調査についてのよくある質問 

ドローン赤外線外壁調査はいくらですか?

外壁の調査面積や構造によっても変わりますが、ドローンメイトでは1㎡あたり100円~300円前後で赤外線調査を実施しています。

乾式工法は外壁打診調査の対象ですか?

乾式工法は対象外となります。

外壁打診調査が必要なのは、「タイル、石貼り等(乾式工法によるものを除く。)」です。

コンクリート、PCパネル、ALCなどにモルタルや接着剤によって張り付けられた湿式工法が調査対象となります。

10年に1度の外壁の全面調査をドローンで行うなら

ドローンメイトでは、最新技術を駆使しドローン赤外線外壁調査を実施しています。

赤外線を搭載したドローンなら、下の画像のような肉眼では確認できない浮きを調査できます。

浮きの赤外線画像と可視光画像
左:浮きをとらえた赤外線画像 右:可視光画像

従来の方法に比べて大幅にコストを抑え、短時間で安全に調査を完了させることが可能です。特に高層ビルやアクセスが困難な場所でも、コストパフォーマンスよく調査を行えます。

経験豊富な一級建築士と協力して、定期報告書の作成から提出まで一貫して依頼できます。(外壁調査のみも可)

10年に一度の全面打診調査を検討中であれば、無料で概算見積りを作成しますので、お気軽にドローンメイトにご相談ください。

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