マンションの浮きやクラックは、建物の劣化や剥落事故につながる恐れがあるため、定期的な全面打診やドローン赤外線外壁調査が必要です。
しかし、管理組合やマンションオーナーの方々にとって、調査・修繕費用の予算には限りがあり、できるだけ調査費用を抑えたいところ。
この記事では、外壁調査事業を展開している『ドローンメイト』が、外壁調査費用についての調査論文をもとに外壁調査の費用について解説します。
外壁調査の2種類の調査方法
外壁調査の主な手法には、打診調査と赤外線調査の2種類があります。
それぞれの方法に長所と短所があり、建物の形状や調査の目的で使い分けられたり、組み合わせて調査されることもあります。
各手法の特長を解説していきます。
赤外線調査
赤外線法は、赤外線カメラで外壁の異常温度を検知して浮きや水分滞留を調査する方法です。
足場やゴンドラなどの仮設工事なしで外壁の全面調査ができるため、12条点検(定期報告)やタイルが剥落した際の調査などで採用されます。
調査と補修を完全に分離できるため経過年数にこだわらず修繕を必要とするときに修繕を行う、状態監視保全と相性が良い調査法です。
少人数で調査できるため、打診に比べて低コストで調査が可能。調査面積が広いほど、単価が下がる傾向にあるため病院や学校や都営住宅などに用いられます。
また、ドローンによる赤外線調査は、高さによる制限がないためタワーマンションなどの高層建築物を調査する際は抜群のコストパフォーマンスを発揮します。
赤外線調査で外壁点検を行うメリット・デメリットは記事でまとめています。
打診調査
打診調査とは、外壁を打診棒と呼ばれる道具を転がして、音の違いで浮きを確認する方法です。
12~13年周期で改修工事を行う際にゴンドラや足場を組んでの打診調査が一般的。修繕の前の正確な工事費用の見積りを行うときに採用される調査法です。
一枚一枚タイルを叩いて調査出来るため、正確な枚数の把握ができます。
打診調査は、手の届く範囲が限られているため、足場、ゴンドラ、ロープ、高所作業車などを使用して、調査を行うため仮設費が高額になる傾向があります。
また、調査面積と比例して人工が増えるため、調査面積と調査費用が比例しやすい傾向があります。
外壁の赤外線調査・全面打診調査の費用相場
全国の外壁調査業者160社に見積りアンケートを実施した「外壁診断費用に関する調査」の調査結果によると、外壁1平方メートルあたりの打診調査の費用は161~757円、赤外線調査は120~653円です。
手法 | 1㎡あたりの費用 |
---|---|
打診調査 | 161~757円+仮設費 |
赤外線調査 | 120~653円 |
打診調査の調査費費用は足場やゴンドラなどの仮設費を除いた価格になるため、実際に調査する場合は数倍から数十倍のコストがかかります。
赤外線調査は打診調査に比べてコストを抑えて調査できます。
赤外線調査には、ドローンと地上撮影の2種類がありますが、コスト面ではそれほど違いはありません。ドローンはクラックの調査を同時にでき、高所の精度が高いといったメリットがあります。
ドローン外壁調査の費用についてはこちらで詳しく解説しています。
外壁調査の費用のアンケート結果
「外壁診断費用に関する調査」では、1988年竣工、RC造11階建のタイル貼り、延床面積5,887㎡の物件を全33社に打診と赤外線で見積りをとっています。その結果は、以下の通りです。
手法 | 1㎡あたりの単価 |
---|---|
打診調査※1 | 1,299円前後 |
赤外線調査 | 444円前後 |
ネットで記載されている相場よりも若干高い印象ですが、上の単価は33社が見積りとして提出した価格を調査した結果なので信ぴょう性は高いです。
直接費、仮設費、総費用の3つに分けて具体的に見てみましょう。
直接費
直接費は、直接調査にかかわる費用(総費用から仮設費と諸経費を差し引いた金額)です。各会社が出した見積もりは以下の通りです。
手法 | 1㎡あたりの単価 |
---|---|
打診調査※1 | 412円 (100~793円) |
赤外線調査 | 288円 (56~603円) |
打診調査に比べて、20~30%程度ほど赤外線調査が安い結果となりました。
また、傾向として打診は外壁面積が増加するほど高くなり、外壁面積が2倍になると費用も約2倍になる結果となりました。
対して、赤外線は外壁面積が増加するほど単価が安くなる傾向があり、1,500㎡から3,000㎡に増えると、価格は165~196%の増加になりました。
仮設費
仮設費は、足場、ゴンドラ、高所作業車、ブランコの設置にかかった費用です。各会社が出した見積もりは以下の通り。
手法 | 1㎡あたりの単価 |
---|---|
打診調査※1 | 573円 |
赤外線調査 | 31円 |
打診調査はの平米単価が2,500円を超えている3社は足場の設置費です。仮設費は足場>ゴンドラ>高所作業車>ブランコの順番で単価が高かったそうです。
赤外線調査については仮設が不要な場合が多いですが、高所作業者を使う業者もありました。
総費用
総費用は、直接費+仮設費+諸経費を足した費用です。各会社が出した見積もりは以下の通りです。
手法 | 1㎡あたりの単価 |
---|---|
打診調査※1 | 1,299円 (156~5,177円) |
赤外線調査 | 444円 (83~1,523円) |
打診調査は、手法によってかなり差があります。足場を立てての打診調査は4,200円/1㎡、ゴンドラは700円/1㎡くらいが目安となっています。
赤外線は、打診調査の平均値と比べて3分の1以下の価格となっています。
外壁調査の目的にあった手法で費用削減
外壁調査は、調査目的に合った手法を選ぶことで無駄な費用を削減できます。
場合によっては数百万~数千万円単位で費用削減できるので、目的に適した方法を選びたいところです。
以下は、調査目的に適した手法の一覧図です。
調査目的 | 打診調査 | 赤外線調査 |
10年に1度の法定点検 | 〇 | |
タイルが剥落した際の緊急調査 | 〇 | |
大規模修繕前の劣化診断 (1次調査) | 〇 | |
大規模修繕前の正確な劣化数量把握 (2次調査) | 〇 |
10年に1度の法定点検
マンションや学校などの特定建築物は、10年に1度の外壁の全面点検を行い自治体に報告する義務があります。この調査を法定点検や12条点検といいます。
法定点検は外壁の剥落事故を防ぐ目的で行われるため、低コストで行える赤外線調査と非常に相性が良いです。
1次調査として赤外線調査で低コストで行えば、大規模修繕の診断時期と大まかな劣化数量を把握できます。’
劣化があまり進行していなければ、3年毎の定期報告の際に自治体に報告するだけなので無駄なコストが発生しません。
もし、劣化が著しく緊急で補修が必要な場合は、足場をかけて2次調査として打診で正確な数量を把握し、補修を行うことで無駄なコストを省き、正確な補修が可能になります。
しかし、自治体によっては10年に1度の法定点検を行う場合であっても、足場を組んで全面打診調査を行っているところもあります。
職員に詳しく話を伺ったところ、打診調査の結果で補修が不要であった場合は足場を解体するそうです。赤外線調査に置き換えるだけで費用を10分の1程度以下に抑えられるので非常にもったいないですね…
タイルが剥落した際の緊急調査
タイルが剥落した際には、その他のタイルも剥落する可能性があるため、危険な箇所を把握し、外壁の劣化状況を診断する目的で外壁の全面調査を行います。
この場合の調査はスピードと安全性を重視するため、赤外線調査が適しています。
赤外線カメラであれば、外壁の劣化状況を非接触で確認でき、仮設工事が不要なため低コストでスピーディーに調査します。
以下は剥落のおそれのある箇所を赤外線カメラでとらえた画像です。
赤外線調査で建物の劣化箇所を把握してから、剥落の恐れのある箇所はどれくらいあるか、壁全体の浮き率はどの程度かを把握し、補修の計画をすれば費用を最低限に抑えつつ調査が可能です。
大規模修繕前の正確な積算
マンションなどの大規模修繕工事を行う際は、1次調査としてまず手の届く範囲で打診を行い、その数字をもとに全体の劣化状況の予想を立てて工事予算を立てます。
その後、足場を立てて正確な数量をだす目的で2次調査として全面打診を実施して、正確な工事金額を調整します。
この2次調査は一枚一枚正確に調査ができ、接近して目視調査とマーキングも同時にできる打診調査で行われるのが一般的です。
赤外線は1次調査の大まかな予算を把握する目的で利用されますが、誤差がでるため工事金額を決定する正確な数量出しの2次調査では打診調査が用いられることが多いです。
赤外線調査の特長
赤外線調査は「調査面積が大きい」「高さがある」建物ほど、コストパフォーマンスに優れた調査が可能です。その理由を見ていきましょう。
調査面積が大きいほど単価が安くなる
打診調査は、調査面積が大きくなるほど人工が増えるため調査面積と単価は比例する傾向にあります。
しかし、赤外線調査は調査面積が大きいほど1平方メートルあたりの単価が下がります。
その理由は、1000㎡でも6000㎡でも調査員は1~2名、現地調査は1日~3日で終えられるためです。
赤外線調査の現地調査では、外壁に日射が当たっているタイミングで撮影を行います。1度のシャッターで数十~数百㎡の範囲を撮影できるため、大きな建物でも短期間で調査が可能です。
「外壁診断費用に関する調査」の結果をみても赤外線は調査面積が大きいほど1平米あたりの単価が下がっている結果となっています。
1,500㎡ | 3,000㎡ | 7,500㎡ | |
打診 | 707,238 | 1,239,825 | 2,614,500 |
赤外線 | 752,908 | 1,044,550 | 1,851,325 |
赤外線と打診の差額 | +45,670 | -195,275 | -763,175 |
規模が大きな建物は、赤外線調査で調査すれば1㎡あたりの単価を安く調査が可能です。
高層建築物ほどコストパフォーマンスが高い
足場は20階前後の建物まで設置できるといわれますが、それ以上の超高層マンションなどは特殊なゴンドラを使っての調査となり、その分費用が高くなります。
対して、ドローンによる赤外線調査は100mでも、難なくアクセスして調査できるため高層建築物の調査に抜群のコストパフォーマンスを発揮します。
最近のドローンは飛行性能が優れており、風圧15m/s(傘がさせずに樹木全体が揺れ始めるくらいの風速)にも耐えられるため安全面も向上しています。
ドローンによる外壁調査であれば、高層マンションやタワーマンションでも低コストでスムーズに調査できます。
外壁調査を依頼する際のポイント
外壁調査を依頼する際は、価格の高い低いだけでなく調査内容を確認するのがおすすめです。
外壁調査の単価が低い場合、”報告書の作成”や”劣化数量の算出”が別料金であったりするからです。
例えば、2社から見積りをとったとしてどちらの会社を選ぶべきでしょうか。
A社 | B社 |
---|---|
300円/㎡ 劣化数量計算あり クラックなどの目視も対応 | 200円/㎡ 劣化数量計算なし 浮きのみで目視はなし |
平米あたりの単価はB社の方が安いように見えますが、大規模改修を視野に入れた調査であればA社を選ぶべきですね。
B社はクラックの調査が含まれてないですし、劣化数量の計算もないため積算にほぼ使えないということになります。
対して、A社は単価が100円高いですが、クラック調査も含まれており、劣化数量の算出も含まれているので、大規模修繕に向いています。
このように、単価といっても業者によって内容に違いがあるため、見積りを依頼する際に外壁調査の目的をしっかりと伝え、業務項目の確認が必要です。
実際に先ほどの33社のアンケート結果でも、業務の項目にけっこうバラつきがありました。
- 事前調査を行うか
- 解析は行うのか
- 目視調査は含まれるのか
- 劣化一覧図は作成するのか
- 劣化数量は算出してくれるのか
依頼する側の目的によっても、必要な業務項目は変わってきますので見積りをとってしっかりと確認することをおすすめします。
目的に適した外壁調査の手法を選ぼう!
外壁の全面調査を行うばあい、”赤外線法”と”打診法”の2つがあります。コスト面だけみると赤外線法が安いですが、すぐに足場を組むことが確定している場合は打診法の方が適しています。
対して、調査の結果によって外壁の補修を行いたい場合や、劣化箇所だけピンポイントで補修したい場合は赤外線法で調査することにより、コスト削減につながります。
ドローンを使った調査は足場代が不要なため、特に高層マンションやアクセスが難しい場所の調査において、大幅なコスト削減が期待できます。